波の音が聞こえた。
 船に打ち寄せる、慣れ親しんだ波の音。
 ああ、船に乗っているのか。どうりで揺れているわけだ。
 ぱちりと、まぶたを押し上げる。
 重い。体の上に何かが乗っかっている。
 視界の端に、青くて明るい部分があった。

 空だ。

 もっとよく見たいと、自然にそう思った。
 体の上の障害物を押しのけると、きれいな青空がいっぱいに広がった。
 雲一つない。本当にただ青いだけの一面。

 ごろりと、転がり落ちた体の上の障害物。
 少し暖かで、ぬるぬるとしていて柔らかだった。
 立ち上がろうと手をつく。
 何かでこぼことしたものがあった。
 立ち上がって少し歩く。
 柔らかな棒状のものをいくつも踏んだ。
 体が重い。
 もう何も乗っかっていないはずなのに、ひどく重い。
 地面に吸い寄せられるような、重力ではなく引力。
 どうしてだろう。
 不思議に思いながらも、空の美しさに気をとられた。
 ずるずると、ひきずるように歩いていく。
 船の端までたどり着く。
 海と空の青が、遥か彼方で交わっている。
 あそこに行ってみたい。
 ふと、そう思った。
 だけどそこまでだった。
 重さに、引力に耐え切れず、空の青は暗くなって。

 暗転。