注:3主双子設定









 近頃妹はやけに浮かれている。いや、普段から自分には真似できないくらい明るい妹だったが、最近はそれ以上だ。原因はわかっている。先日入寮を果たしたばかりの荒垣真次郎だ。彼が寮生たちに手料理を振舞ったあたりからはもう目も当てられない。あれから餌付けされた小動物よろしく荒垣のあとをちょこまかと追いかけて過ごしている。ああ妹よ、兄さんは悲しい。そんなに食に不自由するような生活を送ってきたわけではないのに、いつからここまで花より団子の子になってしまったのか。たしかに、あの夕飯はご飯を六回おかわりするぐらいにはおいしかったけれど。無条件に荒垣という人物像が良い人に書き換わるくらいには、おいしかったけれど。
 あれ以来、荒垣がキッチン近くを通るだけでコロマルと共に念を込めた無言の視線を送ってしまう俺がいることは置いといて。とにもかくにも、女の子がそんな食べものに釣られて異性のあとをくっついてまわるなんてはしたない。そんなようなことを遠まわしに妹に指摘したが、返ってきたのは何言ってるのという冷えた目だけだった。双子の俺たちの間にここまでの隔たりができたのはいつからか。
 幼い頃から似ていない双子だと言われてきた。俺たちはあまりに対照的だ。いつでも明るく笑う妹と、いつでも起伏の少ない無表情な兄。そう、いつでも。根本的なものは変わらないと今でも思っている。俺たちは深い所で同じものを共有している。ただ、そこから表面に繋がるまでの過程が違うだけだと。最近はその妹の表面層が理解できないのだが。これが恋する乙女の力というものか。食だけの方がまだよかった。

「………妹よ」
「どうしたの、兄さん」

 長い間置物のようにラウンジのソファで物思いにふけっていた俺が突然声をかけたものだから、妹は驚いたようだ。キッチンで簡単な食事を作っていた手を止めてこちらを振り返る。ラウンジには二人しかいない。周りに気を使うことなく遠慮なく声をかけられた。

「ガッキー先輩が好きか」

 言った途端がっしゃーん!!と派手な音を立ててボウルが落ちた。幸運なことに、中身は飛び散ってない。派手なリアクションだったが、言葉よりも雄弁とはこのことだ。隅で目を閉じていたコロマルが何事かと顔をあげるのを尻目に、俺は長いため息をついた。
 ああ妹よ、兄さんは悲しい。おまえは完全に俺と違う生き物になってしまったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

僕に会いたい   (100305)

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